バイオ技術のシリコンバレー「メディコンバレー」とビール会社「カールスバーグ」とのウマミある関係

バイオ技術のシリコンバレー「メディコンバレー」とビール会社「カールスバーグ」とのウマミある関係

バイオ技術のシリコンバレー「メディコンバレー」とビール会社「カールスバーグ」とのウマミある関係

先日OBNアワードの記事を書いた時に、バイオテクノロジーの集積センターが少ないのではないか、という話をした。しかし、調査を進めていくうちに、まさにバイオ技術のシリコンバレーともいうべき地域に行き当たった。

 

ヨーロッパは北欧、デンマークのコペンハーゲンとスウェーデンの南部スコーネ地方にまたがる地域。ここは、まさにバイオ技術のシリコンバレー、その名も「メディコンバレー(Medicon Valley)」と呼ばれている。

 

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▲Medicon Valleyの地図。たくさんの企業が集積している

 

・背景にはカールスバーグ

コペンハーゲン周辺にバイオテクノロジーが集積し始めたのは、カールスバーグによる1880年代以来の貢献がある。カールスバーグとは、ビール好きでなくとも名前ぐらいは知っているぐらい有名なデンマークのビールで、コペンハーゲンが発祥の地。中心駅のすぐ西にある醸造所は今日も現役で稼働しており、試飲なども可能だ。酵母による発酵が生み出すビール。まさに伝統あるバイオテクノロジーの賜物であり、その味は偶然ではなく、入念に選別されコントロールされる醸造プロセスによりデザインされる。

 

ただし、この地が「メディコンバレー」となったのは、ビールのためだけではない。1479年に設立されたコペンハーゲン大学、1666年設立のルンド大学など、長い歴史をもつこの地域の大学は、非常に優秀な研究者を多数輩出している。シリコンバレーのハーバード大などと同じく、地域人材の供給源の役割を果たしているのだ。バイオとビールとアカデミアが渾然一体となって醸造された結果が、メディコンバレーなのである。

 

メディコンバレーが設立されたのは1997年。バイオ系企業の集積を背景に、コペンハーゲンのコペンハーゲン・キャパシティ(Copenhagen Capacity)社とスウェーデンのインベスト・イン・スコーネ(Invest in Skåne)社の二社が提携して立ち上げたものである。前者はコペンハーゲン地域に特化した投資企業であり、後者はスウェーデンのスコーネ地方に特化した投資企業である。このような、地域的なインベストメント・カンパニーが存在することも一つの特色であろう。日本では地域ファンドをアクセラレートやコンサルティング含みの企業とあわせて設立するような動きは聞いたことがない。

 

メディコンバレーのネットワーク、Medicon Valley Alliance (MVA)には255以上の団体が加盟している。

このアライアンスには企業の他に大学や病院、地方自治体や公的機関も加盟しており、およそ14万人のネットワークを形成している。

 

・日本でも「日本版メディコンバレー」設立

「メディコンバレー」のように、未来を創造するバイオテクノロジーの中心地を作ろうという動きは、日本にもある。

 

日本におけるバイオ研究を活性化するために、国内でバイオ産業を集積するいわゆる「バイオクラスター」を形成しようと建設されたのが神戸医療産業都市である。現在310社・団体が進出しており、名実ともに日本トップクラスのバイオクラスターとなりつつある。

 

神戸医療産業都市において企業や団体間の交流や協業を推進しているクラスター推進センターは、メディコンバレーとの提携なども推進している。また、アカデミック方面では神戸大に限らず阪大や京大、奈良先端科学技術大学院大学と海外セクターとの連携も進んでいる。

 

神戸医療産業都市構想は理研の故笹井先生が尽力しており、急逝が悔やまれる。世間を賑わせた一件の後も、国内外における日本のバイオ分野への期待は変わらず高い。今後、どのような動きが広がっていくのか注目していきたいところである。

 

・海外でも進む、バイオ系インキュベーションセンターの設立

欧米や日本だけでなく、近年ではアジアでもバイオテクノロジーを地域的にバックアップし、アクセラレートする動きが広がっている。

 

昨日は、インドの大手新聞社The Time Of Indiaから、”Innovation hub to boost life science startups in Bengaluru“というニュースが発表された。バンガロールにバイオのスタートアップ企業向けインキュベーションハブが設立されるというニュースである。バンガロールはインド南部に位置し、人口でインド3番目の大都市。航空産業や軍需産業、IT産業が集積し、インド最大の証券取引所バンガロール証券取引所もある。アメリカ帰りの優秀な人材も多い。

 

記事によれば、市内にあるCentre for Cellular and Molecular Platforms (C-CAMP)と、カリフォルニア大学にあるCalifornia Institute for Quantitative Biosciences (QB3)が共同して、バンガロール市内にバイオ技術向けのイノベーションハブを設立した。ハブはインキュベーションや投資機会の提供により、スタートアップ企業に対してアクセラレートのサービスを提供する。また、米国の研究室とのコラボレーションのチャンスもある。また、C-CAMPはすでにインドにおいて45社のバイオ系スタートアップの支援を行っており、うち10社はバンガロールの企業である。

 

・バイオ系スタートアップ企業には空前の好環境

従来、バイオ系のスタートアップは、投資のリスクが大きい反面、成功した時のリターンが大きいという、ハイリスク・ハイリターンの投資先であった。そのため、十分な投資を受けられずに思うような研究ができなかったり、よい技術であっても投資機会を逃してしまうことがあった。

 

しかし、今日ではバイオ系のスタートアップ企業を技術的側面だけでなく、ビジネス的な側面からもサポートするアクセラレートの環境が整いつつある。

 

日本には水準の高いバイオ技術があり、それをしっかりと磨き上げてビジネスへと飛躍させていくことで、研究成果を実社会へ役立てることのできるツールとすることができる。環境が整いつつあるいま、研究の側からの積極的なアプローチ、アントレプレナーの登場が強く求められているといえよう。

 

Writer:げ

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