森林界のノーベル賞「マルクス・ヴァーレンベリ賞」を受賞した日本の技術

森林界のノーベル賞「マルクス・ヴァーレンベリ賞」を受賞した日本の技術

森林界のノーベル賞「マルクス・ヴァーレンベリ賞」を受賞した日本の技術

先日の記事の末尾で、筆者は「予想外のことに、木材に関連するバイオテクノロジーがあまり見当たらなかった」と書いた。しかし、これはミスリードだった。というのも、これは建材としての木材についてのみ当てはまることであって、木材一般のバイオテクノロジーについては当てはまらないからである。

 

木材に関連するバイオテクノロジーという意味では、非常に進んだ研究成果がここ日本からも生み出されている。今回の記事では、それを紹介したい。

その研究成果というのは、木材セルロースから、TEMPO酸化触媒を用いて高効率にセルロースナノファイバーを生成する技術である。

 

これはどのような技術かというと、針葉樹をナノレベルにまで非常に細かく分解する技術である。ナノレベルにまで分解された針葉樹のかけらは、セルロースナノファイバーと呼ばれる。セルロースナノファイバーは顕微鏡でしか見ることのできない、長さ3~4ナノメートルぐらいの糸のようなものである。この繊維を使うと、今までよりも軽くて強いフィルムやシートができるようになり、石油から作っていたフィルムなどを代替することができる。

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(図:NEDO「TEMPO酸化触媒を用いたセルロースナノファイバーの調製とその応用展開」より)

 

これまでも、針葉樹をナノレベルにまで分解する技術がなかったわけではない。しかし、分解される前は、セルロースナノファイバーどうしが非常に強固に結びついており、これをばらばらに分解するためにはたくさんのエネルギーが必要だった。その結びつきの強さによって、針葉樹は家の柱になるぐらい強靭なのである。今回の研究は、それを少ないエネルギーで分解する技術を開発したもの。この技術によるセルロースナノファイバーの量産体制ができれば、石油を代替するほどの社会的インパクトが見込まれる。

 

というのも、セルロースナノファイバーの活用法は非常に広範にわたっているのである。化学薬品の安定剤、食品や化粧品、織物用の新しい繊維やコンポジットの原料、創傷被覆材など、用途は枚挙に暇がない。石油を代替しうるほどの素材として、世界から注目を集めている。

 

 

この研究成果は、本年3月に森林のノーベル賞ともいわれる「マルクス・ヴァーレンベリ賞(Marcus Wallenberg Prize)」を受賞した。受賞者は東京大学の磯貝明教授と齋藤継之准教授、そしてフランス国立科学研究所植物高分子研究所の西山義春上級研究員である。授賞式は先月9月に行われたばかりである。

 

受賞理由についてはマルクス・ヴァーレンベリ賞のリリースに詳しい。一部抜粋すると、

2005年から2008年にわたる研究により、齋藤継之准教授、西山義春博士は、磯貝明教授とともに、TEMPOにより木質セルロースを選択的に酸化できることを発見しました。TEMPO酸化された木質繊維は、続いて行われる比較的穏和な機械処理により、1本1本のセルロースナノフィブリルへと分解することができます。

TEMPO触媒酸化の利用により、機械的な解繊処理法の選択肢が広がり、NFCの特性を損なうことなく消費エネルギーを大幅に削減し、さらに均質性の高い材料を生成できるようになります。機械的解繊法でNFCを生産するのに必要なエネルギーは、30000 kWh/tにまで上がる場合がありますが、TEMPO触媒酸化によって、エネルギー需要を100~500 kWh/tまで抑えることができます。

プロセスの選択性が向上したことにより、NFC生産はさらに幅広く研究され、世界各地、とりわけ日本、フィンランドとスウェーデンにおいて、産業の発展のための応用へと導く門戸が、さらに広がる道筋をつけました。

とあり、相当革新的かつ社会的インパクトの大きい技術であることがわかる。

 

リリースは「プレスリリース(PDF)」と、技術的ディティールが書かれた「授賞動機(PDF)」。表彰を行う財団のサイトはhttp://mwp.org/である。

 

マルクス・ヴァーレンベリ賞は、森林の持続可能な使用を実現するような革新的技術に与えられる賞であり、ヴァーレンベリ博士の貢献を称えるために1980年にストラ・コッパルベリース・ベリースラーグス(Stora Kopparbergs Bergslags AB, 現ストラ・エンソ)によって設立された。ヴァーレンベリ博士はスウェーデンにおいて活躍した実業家で、材木・製紙など木材関連業を幅広く営んでいたストラ社の取締役・会長を長年務めていた。ストラ社は遠く13世紀から営業の記録があり、林業や鉱山業を手がけてきたスウェーデンの老舗企業である。

 

現在はまだナノセルロースを取り出す技術が開発された段階で、それを応用して商品化するまでには長い時間がかかるという。しかし、逆に言えば、すべての製品を木から取り出すことのできる技術が、その第一歩を踏み出したということであり、今後の応用研究の展開を心待ちにしたい。

 

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参考

Marcus Wallenberg Foundation

NEDO「アジア初、マルクス・ヴァーレンベリ賞を受賞

磯貝・齋藤・竹内研究室

Stora Enso

 

Writer: げ

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