杉は雪に勝てるか?:積雪でも根曲がりを起こさない「出羽の雪」

杉は雪に勝てるか?:積雪でも根曲がりを起こさない「出羽の雪」

杉は雪に勝てるか?:積雪でも根曲がりを起こさない「出羽の雪」

寒くなってまいりました。そこで、雪にまつわるバイオテクノロジーのご紹介をしたいと思います。

 

dewa_img 「出羽ノ雪」といえば、山形は鶴岡のにある渡會本店の日本酒の名前を思い浮かべる人も多いかもしれません。

酒業380年という蔵元だそうで、僕も鶴岡に行くことがあれば立ち寄ってみたいです。

株式会社 渡會本店 http://www.dewanoyuki.com/

 

しかし、今日ご紹介するのは、お酒ではなくて、「出羽の雪」という名前の「スギ」です。

akitasugi

秋田市有林の様子

 

・雪に負けないスギ品種 「出羽の雪」

 

従来より、積雪の多い地域での林業は大きな課題を抱えていました。その課題とは、「根曲がり」。スギの木の根本が、積雪の重さに耐えかねて、ぐんにゃりとカーブしてしまうのです。

setsugai1

▲「根曲がり」したスギ。根本がかっこよくカーブしている

 スギ自身としては、カーブすることでうまく重みを躱しているし、見た目もちょっとかっこいい感じではあるのですが、この曲がりが林業の大敵。なぜなら、根本は太く、しっかりとしているため、本来なら質の高い木材として販売できるにも関わらず、このように曲がっていては柱や梁として活用できなくなり、木材としての質が落ちてしまうからです。

 そこで、雪の重みでも曲がらないスギの開発が各地で進められてきました。これを、「雪害抵抗性育種」と呼びます。2013年までに、実生品種で29品種、さし木品種で8品種が開発されました。

森林総合研究所 林木育種センター 「研究紹介 > 雪害抵抗性育種」

 その中でも、耐雪山形県13号・14号は、種苗法登録品種であり、「出羽の雪1号」・「出羽の雪2号」という名前がついています。

 農水省の品種登録データベースによれば、いずれも「山形県下の民有林から雪害抵抗性品種として選抜し育成されたものであり,単幹状で樹冠形が円錐体,耐雪性の強い用材向きの品種である。」とのこと。

それぞれ、詳細情報が書かれたページが公開されています。

「出羽の雪1号」 / 「出羽の雪2号」

 驚くのは、「登録品種の育成経過の概要」の部分で、

この品種は,「林木の抵抗性育種事業」及び「気象害抵抗性育種事業」に基づき,昭和45年から56年にかけて山形県下の民有林から選出した 131個体のすぎから優れた性質を有する78個体をさし木により増殖し,雪害抵抗性,樹高成長性等の検定の結果選抜され,諸特性を確認して平成6年に育成を完了したものである。

とあることです。昭和45年といえば1970年。まだパソコンもなければCDもなく、電卓が10万円で販売されていた時代。大阪万博の開催した年でもあります。浦沢直樹かよ。そんな昔から開発し、平成6年つまり1994年になってやっと育成を完了し、出願。登録が完了したのは1996年で、「雪害抵抗性育種」に認定されたのがやっと2000年のこと。一つの種を完成させるのに30年もの月日がかかるのです。当時はバイオテクノロジーという言葉すらなかったのではないでしょうか。30年後にも「出羽の雪」はあるでしょうが、バイオテクノロジーという言葉はなくなっているかもしれませんね。。。

・「出羽の雪」の現在と評判

 さて、そんな「出羽の雪」ですが、開発された後に、実際に植えてみて生え方を観察してみる、という調査が現在も進んでいます。

 「出羽の雪」は、山形で開発され、岩手県にある森林総研の東北育種場などで検査され、茨城県つくばにある森林総研の本所から品種登録されるなど、東北にゆかりの深い品種。岩手や山形で、調査研究レポートが発表されています。その中で、いくつか課題も浮かび上がってきています。

 東北森林管理局の平成16年度 森林・林業技術交流発表会では、緑資源機構などによる研究発表「雪害抵抗性品種「出羽の雪」の導入による効果について(PDF)」がなされました。それまで試験的規模でしか行われなかった「出羽の雪」のより実証的な事業として育成したもので、その結果としては「植栽5年目という幼齢林での調査ながら、向田ら(2,002)が育種センサー林の調査結果として公表したものと同様の〔根元曲がりが少ないという〕結果が示され、多雪地帯における造林 品種として「出羽の雪」の有効性が示された」としています。

 その4年後、同じく東北森林管理局の平成20年度 森林・林業技術交流発表集にある、森林農地整備センター東北北海道整備局の発表「雪害抵抗品種「出羽の雪」の効果的な施業について(pdf)」では、岩手県における試験の結果がレポートされています。これによると、実生種に比べて根元曲がりはやはり非常に少ないという結果が出ている反面、風雪害に弱いという傾向が見られたそうです。

 更に最近では、平成25年度中部森林技術交流発表会において二つほど「出羽の雪」についてのレポートがなされています。

 「雪害抵抗性品種「出羽の雪」試験導入について(PDF)」では中部整備局から研究発表があり、「調査の結果、出羽の雪は一般苗に比較し、根元曲がりが少ないことが認められますが、成長と 生存率が劣っている傾向が見られ、現時点においては出羽の雪が一般苗に比較して顕著な優位性 を示すものではありませんでした。」というやや否定的なコメントが述べられています。

 福井水源林整備事務所による報告「雪害抵抗性スギ品種「出羽の雪」と福井県産すぎの比較検討(PDF)」では、「出羽の雪は現時点では根曲がりが小さい生育状況となっています。 地元産は樹高などが優れており、幹の直立性など、総合的には出羽の雪と遜色ないも のと判断します。 」とした上で、「また、新規植栽については、地元産の苗木を引き続き使用すると共に、新たに研究 開発されている雪害抵抗性実生苗の検討を行ってまいります。 」と述べられており、出羽の雪よりも地元産の品種を重視したいとの意向が示されています。

 このように、地域間での競合や綱引きもある中で、長い時間をかけて開発されていく林木。普段はあまり気にすることがないかもしれませんが、もし気になったあなたには、展示林が用意されています。

スギ雪害抵抗性品種展示林(PDF)

(1)山形県西置賜郡小国町

(2)秋田県秋田市河辺岩見

(3)青森県十和田市奥瀬

もし暇のある人は、ぜひPDFにある詳細な地図を頼りに、見学してみましょう!

 

ちなみに、出羽の雪の出羽とは、現在の秋田県と山形県にまたがる地域に存在した旧国名。8世紀頭頃から使われていた歴史ある地名です。

 

・それでも、「根曲がり」には魅力がある

新しい品種が開発されてしまうほど忌避されている根曲がりスギですが、根曲がりすること自体が悪いわけではありません。加工には非常に難がありますが、うまく使えば非常に価値があるのも確か。最後に、いくつか根曲がりスギを活用した加工品をご紹介します。

– 家具

85a73630ddfd8ae7206c613f8a1cce98

協同組合ウッドワーク:越後根曲がり杉座卓

曲がりを活かした家具は多く出ています。この風合いが自然で魅力的です。

 

– てすり

P1070844

北山杉の根曲がり

京都北山杉の苗づくり山づくりから納品までをご紹介する中源通信」にて紹介されていた一品。絶妙な曲がり具合です。こんなマテリアルに囲まれた家なら是非住んでみたいですね。

 

– 家

s-化粧登り

頼成工務店らいじょう日記」より

写真は富山にあるハウスメーカー頼城工務店さんの作業風景。「大事にとって合った中から選んだ杉の曲がり材です。皮をむくのに一苦労しましたがその分良い雰囲気を出してくれると思っています。」とのこと。もし自分が家を作れるのなら、こういうものをふんだんに活用した家をつくりたい。。。

「越後にいきる家をつくる会」のサイトには、興味深いことが書いてありました。

新潟の木は、この「根曲がり」部分に重い雪が積もり、強い負荷がかかります。この力に耐えて成長した木の「根曲がり」は、強い木の中でも、特に丈夫な部位なのです。一方、「根曲がり」部分はクセが強いため加工が難しく、現代の建築では、あまり歓迎されない木材でもあります。
しかし新潟の大工は、昔からこの「根曲がり」を、建物の「梁」など力学的にみてもふさわしい場所に使って来ました。これはまさに、土地の木を知り適材適所に使う、大工の知恵と技術のなせる業です。

(「越後で育った木の魅力」)

これを実際におこなった新築一戸建ての写真が、宮村太設計工房のサイトにあがっていました。一般社団法人 安曇川流域・森と家づくりの会の代表もやっているそうで、こちらのサイトには「木の家施工例」というページが。こんな家に住んでみたいというわくわくをかきたてられます。

 

息の長いバイオテクノロジーで、ようやく雪に負けないでまっすぐ伸びるスギが実現される。他方で、曲がった杉の加工技術も進化する。いずれにしろ、自然を害することなく、イノベーションによってより安価で快適な生活を送れるのであれば、素晴らしいことです。

個人的には、いつか木造の広い家にゆったりと住まうような生活をしてみたいと思いますが、この人生のうちには実現されなそう。宝くじでも当たらないかなぁ。

 

Writer:げ

Photo: 秋田市有林

LINEで送る
Pocket